明治後期の創業以来、100年以上に渡り両国の地で袋物・革小物製品をつくり続けてきた、墨田の老舗・東屋様。その社屋の一部を改修して生まれたのが「MARUA CAFE」です。隅田川と竪川に囲まれ、江戸の文化が色濃く残るこの場所に「ふらっと立ち寄れて、誰かに出会い、自分をリセットできるような、茶屋のようなカフェをつくりたい」。東屋様のそんな想いからこのプロジェクトは始まりました。
まちとつながる“Third Place”に
両国の様々な博物館や美術館・公園の散策の途中でふと足をとめてひと休み。そうして集まった人たちが世代や性別、国籍をこえて自然に触れ合う“Third Place”に。丁寧にヒアリングを重ねて、東屋様の想いの輪郭を浮かび上がらせ、「MARUA CAFE」をかたちづくっていきました。
「まるあ柄」の揺らぎを、建築の中に
カフェの名前にもなっている「まるあ柄」は、東屋様が生み出したオリジナルの模様。川の水面をモチーフにしたこのデザインは、『すみだモダン』や『OMOTENASHI SELECTION』に選ばれている、墨田らしさを象徴する意匠です。店内の入り口にある庇の裏や、カウンター上部のさりげない位置にそっと忍ばせました。視線の端にふっと入るその模様が、空間にやさしいリズムを添えてくれます。

この“まるあ柄”のやさしい揺らぎを空間そのものにも取り込めないかと考えました。川沿いのテラスの庇の裏や天井に、水面の反射がやわらかく映り込むように設計。時間とともに光が移ろい、空間に静かな表情の変化をもたらしてくれます。
水辺の光と風を取り込む、抜けの心地よさ
カフェがあるのは静かな竪川沿い。川に向かって座れるようにテラス席を設け、入り口から奥の川まで、まっすぐに視線が抜けるレイアウトに仕上げました。大きなサッシはフルオープンにでき、風や光が気持ちよく通り抜けていきます。店内の床にはウッドデッキを採用し、テラスとのつながりを演出。奥から差し込む自然光が空間全体に広がり、心地よい時間をつくってくれます。
素材を生かしたディテールが優しさを生む
ベンチは木の幹をオマージュにしたフォルム。自然そのままの素材感を活かしました。
椅子の張地は東屋様と一緒に一脚ずつ選びました。あえてバリエーションを持たせて空間に遊び心を添えています。
テラスの百日紅の木。もともと敷地内にあったこの木をガビオンの花壇をつくって植え替え。カフェのシンボルツリーに生まれ変わりました。
100年の記憶を受け継ぐ空間
この場所は、もともと東屋様が長く使っていたガレージでした。時を重ねた躯体の風合いをできるだけそのままに、そっとエイジング加工を加えることで、これまで積み重ねてきた時間を受け継ぐような空間に仕上げています。設計や施工の面でも、庇やサッシのような重みのあるパーツを古い構造に無理なく組み込む工夫や、川沿い特有の地盤への配慮など、細やかな調整を重ねながら進めていきました。
人とまちと、これからも続く場所に
「MARUA CAFE」はただのカフェではなく、両国の歴史や文化、そして人とのつながりがやさしく交差する“Third Place”です。東屋さんの想いが息づくこの場所で、川のせせらぎに耳をすませながら、心をほどくひとときを過ごしてみてください。

DETAIL
店舗詳細
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DATA
店舗情報
- 店名
- MARUA CAFE
- 住所
- 東京都墨田区両国 1-1-7 東屋ビル
- Web
- https://azumaya.bz/
- 広さ
- 23.66坪
- 竣工
- 2024年11月