甲州街道を走っていると、ふと視界に飛び込んでくる建物があります。鉄骨の構造がむき出しになったファサード、通りに向かって大きく開かれたガラス面。その奥では、ランクルたちが整備を受ける光景が広がっています。ここは、ランドクルーザー専門店「フレックス・ドリーム ランクル調布店」。 自分だけの一台を仕立てたい人が集まり、 クルマに手を加える時間と、その過程を語り合う楽しみを分かち合いたい人の“DOCK”になっています。
建築から空間づくりまで、ブランドをかたちにする
本件は、建築プロセスの初期段階から関わらせていただいた大型プロジェクトでした。 クルマに“機能”だけでなく“想い”も込めて、一台一台にこだわってきた施主様にとって、この本社兼店舗の建設もまた、クルマづくりと同じく「建物にも自社らしさを込める」ことが最大のテーマでした。
綿密なヒアリングを重ねながら、施主様の信念や情熱を丁寧に受け止め、ブランドの姿勢や価値観が空間から自然と伝わるような設計を目指しました。事前調査から全体構想、建築設計、内装デザイン、サイン計画、施工に至るまで──すべてを一貫した世界観のもとで組み立て、理想の実現に寄り添いました。
“DOCK”という発想で描いた、新しいランクルの拠点
デザインコンセプトの核となったのは、“DOCK”という考え方です。これまで多くのオーナーに愛されてきたランクルがここに集まり、エンジニアの手で再び命を吹き込まれ、次の旅立ちに向けて整えられていく。そのプロセスの中で、人と車、人と人との新たな縁がつながっていく──そんな「集積地」としての空間を描きました。
鉄骨フレームが描く、ランドマークとしての存在感
甲州街道に面したこの敷地でまず考えたのは、通りを走るドライバーの視界にどう映るかということでした。信号待ちの一瞬や、走行中のふとした視線の中でも目に留まるよう、建物の配置から構造の見せ方まで丁寧に検討。ランクルが持つタフさに呼応するよう、鉄骨構造をあえて外に見せ、建物全体の無骨さを前面に押し出しました。
構造を見せるのは、街道からよく見える正面と側面の2面のみ。他の面は抑えめに仕上げることで、見せたい部分にしっかりと焦点が当たるよう設計しています。配色にはブランドカラーのオレンジを軸に、ランクルユーザーに人気のアースカラーを組み合わせ、縦横に走る鉄骨のラインが美しく引き立つようにしました。建物全体がランクルの世界観をストレートに伝える“ブランドの顔”となり、遠くからでも目に飛び込んでくる、強い存在感を放つデザインに仕上がっています。
ガラスがもたらす開放感と親しみやすさ
力強い構造体に対して、正面の大きなガラス面が視線の抜けをつくり、空間に伸びやかさを添えています。通りからは内部の様子がよく見え、日中は整備の風景やショールームの様子が視界に入り、夜には建物内からこぼれる灯りが構造体をやわらかく浮かび上がらせます。重厚さと開放感という異なる質感が、昼と夜で異なる表情を見せながら、ひとつの建物の中で心地よく共存しています。
“ヴィンテージアメリカン”を描く3つのフロア
1960年代、FJ40シリーズの登場により、ランドクルーザーは北米市場で大きな支持を集め、トヨタの存在感を世界へと押し広げる原動力となりました。「フレックス・ドリーム ランクル調布店」ではアメリカンパーツの取り扱いがあり、そうした背景を踏まえ、内装デザインのベースには“1960年代のアメリカ”を据えています。各階ごとに異なるトーンと役割を持たせ、この場所ならではのアメリカン・ストーリーが立ち上がるよう構成しました。
1F|ショールーム & ガレージ
テーマは“ヴィンテージ・ガスステーション”。 ガレージとショールームを一体で設計し、外から整備の様子が見える構成にしました。レトロアメリカンな看板やサインに合わせて、Coca-Colaの自販機をレトロなグラフィックでラッピング。空間全体の世界観を細部まで丁寧に整えました。
2F|商談スペース&オフィス
商談スペースはオレンジを効かせたアメリカンダイナー風に。ダイナーのテーブルによく見られる「サイドリブ」という金物を用いたカウンターを採用し、細部の設えによって空間の“らしさ”を押し上げています。一方のオフィスは、DIYで手を加えながら育てていけるよう、あえて余白を残した設計に。吊り金具で工具を収納したり、必要な棚を自分たちで取り付けたりと、働く人の工夫がそのまま形になる空間です。
3F|本社オフィス & パーツ倉庫
最上階は、天井高を活かしたロフト風のオフィスに。鉄骨の梁や配線はあえて隠さず、ランクルに似合う無骨さを内装デザインにも取り入れました。隣にはクラシックなランクルのパーツや関連アイテムが並ぶ倉庫スペースを。“知恵”と“技術”の蓄積を支えています。全体として、外観から連続する世界観が各フロアにしっかりと落とし込まれ、どの空間にも“見せ場”がある構成となりました。
言葉があると、空間が動き出す
今回、いちばん時間をかけたのは、図面や素材を決める前の言葉づくりでした。 「こう見せたい」、「こんな空間にしたい」という感覚はあっても、それだけでは空間は形になりません。チーム全員が同じ方向を向くためには、誰もが理解できる“設計の軸”を、言葉として共有しておく必要がありました。外観、内装、さらに各フロアにも、それぞれの役割や空気感にふさわしいサブテーマを設けました。この“言語化”によって、私たちも施主様も、同じ地図を手にしながら、確かな足取りでゴールを目指すことができたと感じています。
丁寧な積み重ねで生まれた、“想いを届ける場所”
露出された鉄骨の雨仕舞いや排気ルートの整理、営業中の既存店舗との動線調整など、随所に精緻な対応が求められた本プロジェクト。2年にわたる取り組みの中で、進捗に応じて丁寧に状況をお伝えし、施主様に安心していただけるようコミュニケーションを大切にしてきました。
完成した「DOCK」には、今日も様々なランクルが並び、エンジン音やスタッフの声が響いています。それは、単なる車両の拠点ではなく、施主様が長年培ってきた“クルマづくり”の精神を空間が語る場。「フレックス・ドリーム ランクル調布店」は、クルマづくりと同じように、丁寧な手仕事と想いの積み重ねによってつくられた、ブランドの思想を感じられる空間となりました。

DETAIL
店舗詳細
STORE
DATA
店舗情報
- 店名
- フレックス・ドリーム ランクル調布店
- 住所
- 東京都調布市国領町1-17-1
- Web
- https://www.flexdream.jp/lancru/tokyo-choufu/
- 広さ
- 291.81坪
- 竣工
- 2025年4月